映画化もされ、かなり期待して読んだ作品。 しかし、女性の私にとって最後のみっちゃんの行動が腑に落ちません。 あそこまでの行動をさせるには、なぜそこまで彼女が彼を愛したかという説得力をもたせるための書き込みがもっと必要だったと思います。 ただ単に、そうであったらいいという男の人にとっての都合よすぎる行動だったような気がしてしまいました。 父親(アムール)は、凄く魅力的なキャラクターだったと思います。
映画化もされ、ずっと気になっていた「メトロに乗って」を読んで、物語の構成の素晴らし さに脱帽した。 しかし、この作品について残念に思う点がある。 「天国までの百マイル」「椿山課長の7日間」でも同じことを思ったが、これらの作品は、も う少し長い物語でも良かったのではないだろうか? 「壬生義士伝」には、しっかりした溜めがあった。 もちろん、浅田次郎の作品は充分素晴らしい。しかし、一読者として、彼の作品に、もう少し 重厚なものを感じたいと思うのだが、贅沢だろうか?
浅田次郎の初期の代表作。 いわゆる「過去へのタイムスリップもの」であり、地下鉄が「タイムマシン」となって、主人公(小沼真次)はワンマン経営者である父親の過去の姿をみることになる。ここの設定はなかなかうまい。アムールといわれた辣腕の闇商人、入営前の律儀な職工、ソ連軍と戦う満州の英雄、不幸な少年時代、そうして子供をなくして悲嘆にくれる父親。 「鉄道員」「角筈にて」「椿山課長の七日間」に出てくる父親ほど、仕事一途でも、子供思いでもないが、単なる「独裁者」ではなかった父の姿を見事に現している。先程の作品と同様に、浅田次郎の父に対する「オマージュ」とさえ思える。 タイムスリップする時代も数多く、同僚のみち子も巻き込まれる。いったいこの「謎」の先に何があるのか。読者も興味津々に読み進むのだが・・・ 惜しいかな。普通のタイムスリップものの「逆をついた」のだろうが、「現在の幸福を守るために過去を変える」のではなく、「過去を無理やり変えたために、現在の幸福を失うはめ」になる。 浅田ワールドに慣れた読者なら「ああ、またか」となるが、初めて読んだ人は「本を投げ出す」だろう。 はじめて浅田ワールドに入るなら「鉄道員(短編集)」や「椿山課長の七日間」の方がおすすめである。こちらは読者を裏切ることはない。
真次にすっかり感情移入し、真次を通してみち子に恋をしていた。幸薄いみち子を可哀そうに思い、彼女が幸せになれるよう一生懸命に応援していた。それが最後になって、みち子の存在が消滅し、彼女はこの世に生れて来なかったことにされる。真次が半狂乱になるのは、無理もなかろう。私もそれから先を読む気力を失った。 みち子が恋人を幸せにする為にと選んだ道は、間違っている。これでは、真次自体の人生も否定することになる。真次が幸せになれる筈はなかろう。後日譚について何も語られていないが、真次が、妻子や、母のところに戻り、平安に暮らすということは、ありえない。おそらくは、家庭は崩壊し、登場人物すべてが不幸になるだろう。真次の生存まで危ぶまれる。 戦後のGHQ統治時代の闇市の荒稼ぎで産を成し、実業界の雄にまでのし上がったアムールこと小沼佐吉という人物を創造した筆力と、闇市などの描写力は尋常でなく、文学賞受賞も理解できる。しかし、文学に含まれている人生観と、哲学も重要だ。この作品はアムールを盛り立てるために論理的に無理をしすぎている。そして、語り部であり、証人でもある、サイド・ストーリーの主人公とヒロイン、真次とみち子の人生を少しも考えてやっていない。この二人の人生をつぶしてしまったら、佐吉の成功も何の価値もないではないか。 もっと大きな視点と配慮がほしかったと思う。
四十代半ばのサラリーマン、小沼真次(こぬま しんじ)が、地下鉄構内で何度かタイムスリップしながら、不仲な父の過去や三十年前に亡くなった兄の死の真相などを知っていくというストーリー。 レトロな懐かしさを漂わせた話の雰囲気。失われていた父親と息子の心の絆が、徐々に再生していく話の展開。ほろ苦く、切ない味わいが、ツボを心得たストーリーテリングに乗って、じわじわっと心の中に迫ってくるところ。作者の初期の作品ですが、さすがに上手いもんだなあと堪能させられました。 主人公が、地下鉄の駅の不思議な出口で、最初のタイムスリップを経験する件り。文庫本の39頁。その辺からですね、話にすーっと引き込まれていったのは。ノスタルジーとファンタジーとを掻き立てるその記述に、「あ。いいなあ」と。 地下鉄通勤者のなかでも、特に、銀座線を利用する方々におすすめしたいタイムスリップ小説。次の文章なんか、実に素敵でぐっとくるじゃないですか。 <喪われた時代の哀しみと安らぎは、永久にこの小さな地下の世界に封じこめられている。これはサブウェイでも、アンダーグラウンドでも、メトロでもない。昭和二年からまっすぐに東京の闇を駆け抜けてきた「地下鉄」なのだと、真次は思った。(ちかてつ)、と胸の中に平仮名で書くと、おとぎ話のマッチのように哀しく暖かい灯が心にともった。>(文庫本 p.174〜175)